『源氏物語』って長くて難しそうだけど、どんなお話?
ここでは、わかりやすく各帖にわけてあらすじをご案内しています。
『源氏物語』は54帖から成り「夕顔」はその4帖目のお話です。
「夕顔」の主な登場人物
源氏、五条の乳母、惟光、夕顔、右近、空蝉
「夕顔」のあらすじ
五条の乳母のお見舞い
六条御息所の元へ向かう途中、源氏の君は五条に住む大弐の乳母のお見舞いに訪れます。
乳兄弟の惟光の母で、幼いころより特に親しんだ乳母でした。
病がいよいよ重くなり、出家して五条の家で養生中です。
急な訪れに門が開くまで少し時間がかかります。
待っている間、周囲を観察していると、その隣の家に何人か美しげな女の人影が簾越しに見えます。
つる草が這う切懸(粗末な板塀)には、白い花が咲いていて、随身(従者)に一房折ってまいるよう命じます。
すると、こぎれいな女童が手招きして「これにのせてお上げください。」と、白い扇を差し出したのでした。
乳母のお見舞いを終えた源氏が、先ほどの白い扇をご覧になると、良い移り香がします。
心あてにそれかとぞ見る白露の光そえたる夕顔の花
(当て推量ですが、もしやあのお方かとお見受けします。そのまばゆい白露の光のようなお方に所望されて、夕顔の花は大変光栄です。)
と、その扇に書き添えられていました。
源氏は興味を覚えて、
寄りてこそそれかとも見めたそかれにほのぼの見つる花の夕顔
(もっと近寄って見てみたいと思います。黄昏時にぼんやり見た花の夕顔を)
と返歌をします。以上より「夕顔」と呼ばれます。
この西隣の家は揚名介の家で、主人は田舎へ行っており、若く風流好みな妻がいて、宮廷人の姉妹がよく出入りしているとのことでした。
六条御息所との比較
その後も六条御息所の元へ通う途中、この五条の家が絶えず目にとまります。
六条御息所は前の東宮(皇太子)の未亡人で、趣味も良く教養もあり、たしなみ深い女性ですが、取りすましたようなところが、源氏には多少息苦しく感じられます。
住まいも整っていて、あの雑然とした五条の家とは比較になりません。
惟光の報告によると、五月ごろから五条の家に身を寄せている人が居るようですが、家の者にも身元は明かしていません。
透き影の何人かの若い女達には、仕えている主人がいる様子。
たまたま夕日が差し込む中、手紙を書こうとしている主人格の女の人をみると、たいへん美しい顔をしていたとのことでした。
正妻葵の上や六条御息所といった上流階級の女性たちとの、緊張した関係に疲れていた源氏には「雨夜の品定め」以降、まだ出会ったことのない階級の女性に、ますます興味を覚えるのでした。
夕顔との出会い
惟光も五条の家の女の一人といつしか恋仲となり、源氏を手引きします。
やっと出会えたお目当ての女夕顔は、信じられないくらい素直ではかなげでおっとりしており、そうかと言って全く子供じみているわけでもなく、気が付けば源氏は、その魅力の虜になっていました。
夕顔がずっと素性を隠しているので、源氏も身分を明かさぬまま逢瀬を重ねます。
色々考え合わせるに、頭中将(源氏の義兄)が「雨夜の品定め」で語っていた行方知れずの女ではないかと、見当をつけていました。
夕顔の方でも相手がどこの誰だか突き止めようと、文使いの後を付けさせたりしますが、行方を見失うのでした。
夕顔を某の院へ連れ出す
中秋の頃、板葺きの屋根の隙間から月影が差し込み、いつにもまして五条の家の粗末な造りが照らし出されます。
隣近所の唐臼を引く音や、砧で衣を打つ音、お勤めをする年寄りのしわがれ声など、聞こえてくるのは、今までに耳にしたこともない音ばかりです。
誰にも邪魔されず二人で静かに過ごそうと、明け方近く、源氏は夕顔と侍女の右近だけを連れて、近くの某の院へ向かいます。
某の院の留守番役達がもてなす様子に、右近もようやく相手が源氏の君だと確信するのでした。
夕顔との死別
夜が明けて日が高くなり、広い邸内の様子がはっきりと見渡されます。
静かだけれども、長年留守居役しか住んでいなかったせいか、庭の様子も荒れ果てています。
夕暮れ時に源氏にぴったりと寄り添いながら、不安そうに外の様子を眺める夕顔です。
その不安はやがて現実となり、日が暮れて眠りにつく頃、枕もとに美しい女が現れ、恨み言を言った後、夕顔をとり殺してしまうのでした。
息をしていない夕顔を抱き寄せながら、惟光を探しますが、姿が見えません。
右近も恐ろしさで気絶しそうです。
なす術もないままようやく夜が明けるころ、惟光がやって来ました。
惟光の縁者を頼って、夕顔の亡骸は東山の鳥辺野に運び出されました。
蘇生しないのでそこで葬送することとなり、源氏もお忍びで訪れ、最後の別れをするのでした。
泣く泣く二条院に戻った源氏は、病を得て加持祈祷をあちこちで行う始末です。
死穢の忌みが明ける頃、病も癒え、侍女右近にはじめて夕顔の素性を聞きます。
右近はあの後、二条院に引き取られたのでした。
夕顔の父三位の中将は早くに亡くなり、しばらくして頭中将(当時は少将)が夕顔に通い始めます。
ところが、頭中将の正妻右大臣方からの圧力を受け、臆病な夕顔はとても怖がって、隠れるように五条の家に身を寄せていたのでした。
頭中将との間に一人娘(玉鬘)を授かっており、西ノ京の乳母の家で預かっているとのことです。
その幼子を引き取って養育したいと源氏は思いますが、西ノ京の乳母はあの五条の家の揚命介の妻の母で、右近の母ではありません。
詳しく尋ねようにも、これまでの経緯は世間には内密にしたいので、今はそれ以上幼子の行方を追及することはできませんでした。
空蝉も伊予へ旅立つ
同じ頃、夕顔と出逢う前に一度だけ逢瀬のあった空蝉が、夫伊予介と共に伊予の国へ旅立つこととなりました。
また、空蝉と取り違えて関係した伊予介の娘軒端荻は、蔵人少将と結婚したとのことです。
夏頃、伊予介が源氏の元へ旅立ちのあいさつに訪れた時、伊予介の妻と娘の両方と関係のある源氏は、何となく気まずい思いをしたものでした。
こうして源氏の愛した夕顔とは死別し、空蝉も旅立っていくのでした。
過ぎにしもけふ別るるも二道に行く方知らぬ秋の暮かな
(亡くなってしまった人も遠く旅立っていく人も、行方も知らず別々の道を行ってしまった秋の夕暮れのわびしさよ)
この歌をもって「雨夜の品定め」に言う、中の品の女とのお話は締めくくられます。